戒め

ダニエル・デフォーと言えば『ロビンソン・クルーソー』が有名。
その中で興味深い一節がある。

それは、ロビンソンが父親に訓戒を受けている場面で
商人であった父が、ロビンソンの考えを見抜いて、忠告を与えている。

父は
「運を賭けて外国に行き、尋常でない仕事をやって有名になろうという連中は、
どん底生活にあえいでいるような連中か、ひどく野心的な金と運に恵まれた連中かそのどちらかで、
お前などが手の届くことでもないし、そこまで身分を下げてやるまでもないことだ。
お前の身分は中くらいで、いわば下層社会の上の部にいる」と言い
「自分の長年の経験によるとこの中くらいの身分ほどいい身分はないし、人間の幸福にも一番ぴったりあっている」と教え諭す。

そして、「中くらいの身分の者はほとんど災難をうけることはないし、人生の浮沈に苦しめられることもない、
このちょうど頃合いの暮しには平和と豊かさがあり、さまざまな美徳、楽しみがあるのだ」
中産階級の生活がどれほど満たされたものであるのかを教え聞かせている。

ロビンソンは孤島でこの父の忠告を思い出し、今までの自分の行ないを悔い改める。

「神のおかげで幸福に安らかに生きていける身分に生まれたはずなのに、神の思召しも聞こうとせず、
またその祝福をいくら父親が言って聞かせても耳を傾けようとはしなかった、
だから神の裁きがくだったのだ、今や自分を助けてくれる者も話を聞いてくれる者もいない
深い後悔の念に悩まされたのだ。

これは、著者デフォーが自身の波乱万丈の人生経験から得た結論であった。

デフォーは自らの人生においてさまざまな経験をし、それを通して理想的な人物像を心に持つようになった。
そして、漂流記の中でロビンソンという1人の男をモデルとして、彼が考える理想的な将来像を描き上げたのだ。

ぜひあの子にも読んでもらいたいね。
同時に我々も今一度読み返すべきだ。
お隣の国で発生したおぞましい事件を見てそう強く感じた。